薔薇の香り
- knit tunica
- 2025年12月19日
- 読了時間: 2分
薔薇の香りを買った。
薔薇の香り、苦手なのに。
ルームスプレー、っていう呼び方でいいのかな。あらためて名称について考えてみるとよくわからない。お部屋の空気を、いい香りにするあれです。
つやつやした緑色の瓶が、しゃんと背筋をのばして佇んでいて、まんまるの蓋はすこしくすんだピンク色。ああなんてかわいらしい、くやしいよ、なんて思いながら、買ってしまったのだった。
でもね、わたし、薔薇の香りがすこし苦手なんです。
花々しい世界で勝ち続けてきたかのような、磨き上げられたその誇り高き上品さを前に、負けてしまうんだ、いつも。
沈丁花、クチナシ、蝋梅、フリージア、桜、とかとか。好きな花の香りもたくさん思い浮かべることが出来る。
とくに、お花屋さんに入った瞬間に押し寄せる青々しい緑の香りとか、思い出しただけで胸がきゅんとする。うれしくなって、気持ちがふわふわしてくる。
けれど、薔薇の香りがひらく世界には、わたしの居場所はないのだろうなって感じる。
わたしのような日陰者には、烏滸がましいというか、ふさわしくない感じ。
あまりにもまぶしい、強い光をもった香りだから。
それでも、人間って矛盾をはらむものだ。
苦手なのに、買っちゃったから、使う。
出会ったひとからふわりと香るぶんには、いい匂いだなって思えるけれど、長い時間自分が過ごす空間が苦手な香りっていうのは、くるしいもので。
ほらね、やっぱり、わたしには、わたしなんかには。
そう、こういう悲観的で陰鬱な心をもった人間の肺には、睡蓮はおろか薔薇なんか生えてきやしない。そのうちに、この偏執さも歳月を重ねていって、変な色の苔とかが生えだすんじゃないかな。 ところで苔って魅力的ですよね。
眉間にちょっと力を入れながら、だましだまし、香りのことを意識しないように過ごしてみた。
けれどもついには頭が痛くなってきて、窓をあける。
風がつよい日。
からりとしたさわやかな風で、曇り空のもとでせっせとシーツを干した、昨日の自分には内緒にしておきたいほどに気持ちのいい天気だ。しっかり大人と呼べる年齢になったわたしは、今日の天気予報をチェックできても、明日の天気まで考えられないのだ。
どんまい、昨日のわたし。
まあいいさ、今日を生きるぜ、俺は。
明日もどうぞ健やかに。
