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小暑の日記

  • 7月31日
  • 読了時間: 3分

7月12日


明るくて、遠慮がない。夏の光みたいなひとに焦がれて、気づけば自分の輪郭が焦げ付いてしまった。じりじりと焼かれて、剥がれて、崩れて、羽はもう風に消えた。




7月13日


くたくた、という音が今の自分の身体にしっくりくる。つかれた、とか、ねむい、では表せないようなやわらかい疲労感に包まれている。

この薄衣をいい加減脱いでしまって身軽になりたい。もうとっくに脱ぎ方がわからない。鏡の前に立つのが怖い。あのころの私よ、どこかで、どこかへ、かろやかに駆けていてくれ。やわらかい心のまま。




7月14日


図書館へ行く。なんとなく火曜日は図書館へ行くことが多い。「昨日の休館日、会えなくてさみしかったよ」なんて、心の中で本たちにしっとりと話しかけてみる。まるで毎日会いに行っているようなせりふだが、全くそんなことはないし、先週は一度も来ていない。先々週に借りた子どもの絵本の返却期限が今日だったというだけのことだ。


足を運ぶ頻度はそれほど高くないとしても、図書館の本たちは穏やかな感じがしてすきだ。誰のものでもないという、そしてこれからも誰のものになることなく、この場所に腰を落ち着かせていられるぞ、という感じの余裕があって、手に取るこちらにあまり緊張を与えない。読みたくなったならいつでもどうぞ、わたしはここでのんびりしてるから。そんなやわらかな声が聞こえてきたことがあったとかなかったとか。なにか物語がはじまりそうな雰囲気も内包している、図書館という場所がすきだ。




7月15日


奥底に沈んだ気持ちを掬い上げようとして、気づいたら溺れていた。 近づいて、ほんのちいさなほころびにも目をやり、指でなぞる。痛みをたしかめる。息を止めて、暗闇に目をこらして、飽きずに涙したりしている。

光も闇とともにあるのだと信じる日々は、希望ですか、呪いですか。




7月16日


眠りのうすい日が続いている。浅いのではなくて、うすい。向こう側が透けて光るような、鋭利なもので簡単に貫いてしまえるような、たよりなくてどうにもならない眠り。それにすがるしかなくて、真昼の光が目に痛む。いま、ここ、立っている場所。大地はすっかり目覚めている。心だけが、空に浮かんでいるの。




7月17日


歯医者へ行く。歯医者というのは基本的には事前に予約をして行くものだ。今回の診察も以前かかった際に予約してあったわけだ。しかし、今日を迎えるまでに私は2度も日時を間違えている。受付で診察券を出した時の、スタッフさんの気まずそうな顔が忘れられない。「あら、今日じゃないみたいです」__もうそれなりの大人の年齢であることを証明するマイナンバーカードと、正しい予約日時が書き込まれた診察券が返却される。その顔もこのやりとりも、2回目ですね。はい、すみません、また来ます…。

それはそれは顔から火が出るほど恥ずかしい。ていうかもう脳内ではちょっとしたボヤ騒ぎぐらいにはなってた。


過ぎてみればたいしたことのない日常の失敗だが、これっぽっちのちいさなとげが、いつまでも心に刺さったまま抜けない。予約した日の、その時間に目的地へ行く。どうしてこんなことが当たり前にできないんだろう。待合室でそれぞれ座っている老若男女、みんなすごい。ちゃんと間違えずに来てる。そのすごさにみんなは気づいてない感じが、私をどんどん孤独で情けなくさせる。


春に奥歯の大手術(2度の抜歯からの移植)をして、もう今年の漢字は「歯」と決めている。ほんとうにほんとうに、歯が痛いのはかんべん。もうもう結構。

歯の健康のために、懲りずにまた次回の予約もした。復唱して、カレンダーにしっかり入れたし、家族にも宣言した。次こそ正しい日時に診察券を渡すんだ。笑顔のやさしい受付のお姉さん、待っていてください。




次候 蓮始めて開く



 
 
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